第1回 畠山鶴松の落書き|シンポジウム・フィールドワーク
第2回 なべっこ遠足|フィールドワーク
第3回 ”小さな問題”から捉える朝市|フィールドワーク
第4回 森を学び、木を食べる|フィールドワーク
第5回 五城目町を博物館に見立てるなら|フィールドワーク
[講師]
北島弘宇(北宇商店)
石倉敏明(人類学者/秋田公立美術大学准教授)
〜プログラム〜
9:00 ものかたり
9:15 班分け&調理内容決め
9:30 朝市通りで食材調達
10:30 雀舘公園へ遠足(移動)
※雨天の場合は「秋田県環境と文化のむら」へ
11:00 なべっこ作り(調理)
昼食
13:30 これからのなべっこ談義(於ものかたり)
14:30 後片付け
15:00 現地解散
★持ち物
①フィールドノート(持ち運びやすいクロッキー帳やスケッチブックなど)
②筆記具
③箸、器、敷物
かんたんなガイダンスのあと、3つのグループに班分けが行われる。参加者全員が輪になって、順番に「1」「2」「3」「1」「2」「3」……と点呼のように叫んでいくという単純きわまりないやり方で。
自己紹介もそこそこに、班ごとにメニューと買い出しの分担などを決めなければならないから、なかなか慌ただしい。
肉は事前にコーディネーター側が用意したという鶏肉。まるまる1羽分である。これを素材にどんな鍋を作るのか話し合う。
それぞれが話しがまとまったところで、予算4000円(/班)を握りしめ、朝市に向かう。
そう、このときは皆、幸せだった。平等に輝いていた。すべての班に無限の鍋の可能性があった……。しかし、このときから目に見えないところで、徐々に広がりつつある溝が、やがて埋めようもなく深くなり、参加者の明暗を分けることになろうとは、このとき誰も想像していなかったのだ。
買い出しを終え、思い思いの食材を手にした一行が向かったのは、「環境と文化の森」という公園内の原っぱ。ここで、今回の講師のお一人である北宇商店の北島弘宇さんと合流した。
北島弘宇さんは1960年生まれの大川町出身で、もちろんなべっこ体験者である。毎晩飲み歩く自身の様子を綴るブログ「きたうとあそぼう」の中では、仲間と一緒に食べることを楽しんでいる様子が伝わってきて、毎日がなべっこ遠足、みたいな人だ。(2017年の11月末から新しいブログに引っ越し)
さて、いざ調理開始。現代のなべっこ遠足では卓上用のガスコンロで煮炊きするのが定番。そのため火おこしは男子、調理は女子などという役割分担は一切なし。ジェンダーレスである。全員が調理に参加する。
1班はまるでシェフのようにメンバーに的確に指示を出すミヤタさんのもと、すべての食材が適正な大きさに切られ、着々と準備が進んでいく。聞けばミヤタさんは管理栄養士が本職だそうで、暗黙裡に「この人の言うことを聞いておけば間違いない……!」という空気が班全体に広がっている。
2班。
「ど、どうしよう……」
包丁を持ちながら隣をちらちら、お互いを探り探りする膠着状態が続く。
「き、きのこを切ろうか」
「たまねぎはこうでいいよね……」
いつもは流暢な講義ぶりを披露する講師の石倉先生が、めずらしく口ごもる。
「料理は普段、ほとんどしないもので……」
目指すゴールは「チキンきのこカレーうどん」だが、大丈夫か、2班!
積極的に音頭をとる人がいない2班には、早くも暗雲が垂れ込め始めた。
3班はなべっこ経験者の数の割合がもっとも多いメンバー構成である。そのためかそれぞれの個性を生かしながら互いの間合いを計るバランス感覚のいいチームのようだ。
そのほか「食用菊」「キムチ」など、予定外の食材も購入。アドリブが利くタイプとお見受けした。
3班の盛り上がりを尻目に、2班がただただ立ち尽くしている。
ど、どうしました?
「……火が、つきません」
どうやらガスボンベが切れている。2班がなすすべもなく立ち尽くしている横で、1班の「わーー」と歓声が上がる。びくっとする2班。
ミヤタシェフが高らかに宣言した。
「1班、できました~」
パチパチパチパチ。拍手喝采する1班のメンバー。
も、もう完成?!
比内地鶏のつゆの中はささがきごぼう、鶏肉、しらたき、天然まいたけ、だまこ、セリと完璧な内容。
さながらエリート鍋である。
「う、うまい」
「文句なし」
「だまこ鍋ですね」
「ばっちりですね」
2、3班はそれを見て途端に焦りだす。
「えっ、もう?」
「早くない?」
「ヤバイ……」
ここから急に3班はアクセルを踏んだ。
「きのこ鍋」と「カレーリゾット」というゴール設定は遠い過去の話とばかりに
アドリブ購入したキムチを投入した赤い鍋と、あっさりとした水炊きのような白い鍋の2種類で進行していた3班の鍋。
「よし、ここに菊をいれちゃえ!」と山本先生。
それは号令ではなくて、ほぼ一人言だった。
赤いキムチ鍋に山盛りになった、生の菊の花びら。
「鍋に菊を入れたことはなかったが、いかに……?」
と残りのメンバーが固唾を呑んで見守るなか、世にも新しい赤紫の菊キムチ鍋が完成したのであった。
その様子を見た3班のヨウコさんが、ポツリといった一言。
ヨウコさん「なべっこは、ちょっとずつ自分の思い通りにいかない」
この言葉はそのまま、なべっこ遠足の真髄を言い得ていた。