第1回 畠山鶴松の落書き|シンポジウム・フィールドワーク
第2回 なべっこ遠足|フィールドワーク
第3回 「小さな問題」から捉える朝市|フィールドワーク
第4回 森を学び、木を食べる|フィールドワーク
第5回 五城目町を博物館に見立てるなら|フィールドワーク
[講師]
北原和規(UMMM デザイナー・京都造形芸術大学非常勤講師)
山本太郎(ニッポン画家・秋田公立美術大学准教授)
佐藤稔(秋田大学名誉教授)
〜プログラム〜
9:00 ものかたり集合
9:15 「小さな問題」とは?(座学)
10:00 フィールドワーク@朝市通り
昼食
13:30 五城目朝市の「小さな問題」発表&講評
15:00 解散
★持ち物
①フィールドノート(持ち運びやすいクロッキー帳やスケッチブックなど)
②筆記具
五城目町でのプロジェクトも3回目。この日の講師は京都のデザイン事務所UMMM(ムム、と読むそう)の代表・北原和規さんと、デザイナーの藤井良平さん。講師はニッポン画家の山本太郎先生。秋田公立美術大学の先生でもある。
北原さんと山本先生は、同じ京都造形大学出身。ということで、今日のものかたりは関西弁が飛び交い、関西人にどうしても期待してしまう「お笑い的な感じ」もちゃんとあって、和やかに講義がスタートした。
山本先生「地域のアートプロジェクトというと、自治体の人も地域の人も『アートプロジェクトをやれば地域の大きな問題が解決するのでは』という期待をしてしまう傾向があります。人口減少、高齢化率の上昇、空き家の増加……。そうした問題をアートプロジェクトを実施することで解決できるんじゃないか、という空気が今蔓延しています。参加するアーティストからしてみると、『いや、作品一個置いたぐらいで出生率が上がる、みたいなことはないんだけど……』と。そこには大きな乖離があります。」
見る側としてもなんとなく感じてきた「アートで地域を元気にって……(ちょっと無理あるでしょ)」というモヤモヤは、参加するアーティストの方がよっぽど強く感じているという事実。これは結構重い。都築響一さんの「街は起きたり寝たりはしない」という言葉が頭をよぎる。
山本先生「では、われわれがこのアキビプラスをやったり、地域の芸術祭をやったりする、この意味ってなんだろうと考えたときに、今回はできるだけ問題を小さくして扱えるサイズ感で向き合ってみよう、という試みをしてはどうかと思ったんです。解決できるかどうかは置いといて、まずは小さな問題を集めるところからやってみようではないか、と。今日の講師の北原さんは実際に京都造形大学でそういう授業をやってこられたそうです。北原さん、よろしくお願いします」
北原さん「おはようございます。北原です。この『小さな問題から考える』プログラムは僕が今京都造形大で教えているときの授業で始めた取り組みです。僕、大きな問題は〈ゴジラ〉やと思っていて、ゴジラがおったらさ、でかいから日本中みんなが見えるわけやん。でも、身の回りにはもっと小さくて自分たちにも解決しようと思えばできるような問題っていっぱいあるはずなんです。そういう問題って、結構おもしろいものがたくさんあって」
そういって北原さんはこれまで集めてきたサンプルを、紙芝居のように示した。
北原さん「はい、じゃん!『ほこりは何故灰色なのか』」
……え?
時間の流れが一時止まったかと思った。それぐらい、しんとした。
北原さんはそんな受講生の反応も軽く受け流し、続ける。
北原さん「この問題を挙げた学生のすごいのは、プラダ、グッチ、ルイヴィトンなどアパレルのお店にいって、その店のほこりを拾ってきたっていうんです。『すみません、ほこりください』って。そして集めたものを「プラダのほこり」「コムデギャルソンのほこり」といって展示しました。」
ためらいがちに笑う人、数人。のち沈黙。
北原さん「プラダのほこりは他よりちょっと黒いね、みたいな。でもやはりほこりは全部グレーで、なんでやろなって。服はいろんな色なのに、不思議とグレー……」
そういいながら、北原さんはどんどんカードをめくる。
クスクスとした笑いも時折出るものの、まだ自分たちが何を見せられているのか、なんのための時間なのか、理解できない人が大半のまま。
北原さんは気にしない。気にしないでどんどん進む。
北原さん「『一日に一度も鏡をみない日がある』。いやー、これ、哲学やなぁと思って」
受講生たちが話の行く末を見守るなか、今度はUMMMスタッフの藤井さんがカットインした。
藤井さん「俺、絶対ないわ。絶対見るわ。鏡みて、『おっしゃ、今日も男前や』って」
突然のイケメンのカットインに場がほぐれる。
ただし、話の方向性はまだ見えない。
北原さん「うわ、これめっちゃわかる。『ドアノブカバーって何?』」
30代以上の受講生からは
「ああ、懐かしい」
「黒電話のカバーとか、ピアノカバーとか、テレビとか、昔って全部カバーかけてたよね。」
と声が上がりはじめる。
小さな問題、見えてきたか・
北原さんはどんどん進む。
北原さん「『お尻の拭き方の正解は?』」
一同、ざわめく。ふ、拭き方?
山本先生「これ僕、娘が生まれて初めて知ったんですけど、前から後ろが正解なんですってね。僕、ずっと後ろから前に拭いてたんですけど」
女性陣、ざわめく。
山本先生「だから娘のお尻もそうやって拭いてたらカミさんに怒られて。」
北原さん「これは僕の研究対象にしてて、いろんな人にやってもらったんですが、すごいんだよ! みんな違うよ! 一方通行タイプもいれば、往復タイプもおるし、ゴシゴシ消しゴムみたいに拭く人もいるんです。トイレの時間って究極のプライベートタイムだから、自分のやり方が正解なんですよ。それを答え合わせすることってないですからね」
その後も
「毛を抜いているとき一番集中してる」
「コンソメパンチの“パンチ”って何?」
「黒髪がちゃんとしてるイメージはなぜ?」
「“驚きの白さ”とは」
「自動販売機の“つめた~い”“あったか~い”の“~”の意味は?」
「餃子と酢ってなぜこんなに相性がいいのだ」
「結婚指輪はなぜ指輪でないといけないのか」
「アメリカンドッグにドッグがいない」
「横文字はおしゃれなのか」
などなど、たくさんの「小さな問題」が例示されていく。
藤井さん「今日はミクロな視点ではじめてください。朝市に行ってみて、パッと見て『ああ、人がいない』ではまだピントが合っていない。人がいない朝市にいる、おばあちゃんの、その爪の先の何かみたいなものが見える。それぐらいです」
ユカリロ「つ、つまり……今の私たちはまだ目が慣れていないだけ、ワラビ採りでワラビに目が慣れたら急にいっぱいワラビが見えてくる、あるある、いっぱいワラビあるじゃん! みたいなことですかね?」
とこちらも例えが迷走しはじめる。
北原さん「最初に言っておくと、集めてきた小さい問題は、解決してはいけません。解決しちゃったらおもしろくなくなっちゃうんです。解決できてしまうものはもはや問題ではない。漢字みたいに辞書で調べたり、ググったりしてはだめ。それに対して思いを馳せているほうがおもしろいからです。
みんなで考えたいのは、解決できない問題、あるいは解決したところで役に立たない問題についてです。」
山本先生「自分でみつけてきてもいいし、朝市を歩いている人に聞いてみてもいいですね。聞き方もコツがあると思います。核心に迫るためにあえて世間話から始めるとかね」
北原さん「あえて“問題”っていわないとかね」
高度なコミュニケーション! さすが京都!
果たして受講生はいい「問題」を集めてこられそうなんだろうか。とりあえず今の自分は、心底自信がないぞ。そんなモヤモヤを抱えながら、ユカリロ編集部は朝市に向かった。