yukariRoインタビュー

アキケイ・チバとユカリロのせわやき

その3 シェアビレッジをめぐる五城目ツアー編

 


「シェア・ビレッジ」など日本中の注目を集めることになった、五城目町。

その仕掛けをつくっている地域おこし協力隊の柳澤龍さんはじめ、

五城目町を盛り上げている若きチームの

熱い思い、柔らかい頭脳、そして七転び八起きの五城目愛に

すっかり感心してしまった、ユカリロ。

 

最終回となる秋田経済新聞のチバさんへのインタビューも

自然と熱を帯びます。次第に話の方向は

「アートって一体、何?」という初心にかえり……。


アート×秋田、カルチャー×秋田と
「AKIBI plus」×秋田のこれから。

果たして、その先に何か答えは見つかるのでしょうか。

 

 


©Nozomi Takahashi
©Nozomi Takahashi

 

千葉尚志(ちば・ひさし)


1967年秋田市生まれ、秋田高校卒、神奈川大学経済学部卒。

フリーランスのウェブ制作者を経て、現在はウェブ制作会社経営のほか、

ニュースサイト「秋田経済新聞」編集部運営を行なっている。
全国初のご当地版モノポリー「秋田県版」や、ご当地トランプ「なまはげ印の大富豪専用トランプ」「同・超神ネイガー版」などを企画・制作・販売

 

「地域の人」と「外の人」の

いいマッチング

 

ユカリロ高橋(以下高橋):外の目が入ることで地域が活性化する動きを、

             五城目ですごく実感できましたね。

 

ユカリロ三谷(以下三谷):受け入れる側の柔軟さも驚くべきものがあるなと思いました。

            「環境と文化の村」受付のおかあさんも、

             柳澤さんのことが「めんこくて仕方ない」って言っていたよ。

 

チバ:五城目が男鹿や県南と決定的に違うところはね、五城目には地元側の需要があったんですよ。

   やみくもに「若者に移住してほしい」というのではなく、事前にプランがあったからこそ、

   地域おこし協力隊を募集していたわけで。受け入れないわけがない。

 

三谷:もともとBABAME BASEの最初の入居者のお一人である株式会社ハバタクの丑田俊輔さんが

   五城目町に来ることになったのが、今の五城目チームの大きな中心になったようです。

   丑田さんの田舎でベンチャーをおこしてみたいという目的と、五城目町のビジョンが

   うまくマッチしたという。

   そして「丑田さんがいるから、五城目に行ってみよう」という仲間が集まった、

   という感じだったようですよ。

 

チバ:そこで需要と供給がうまくピンポイントでマッチしたというわけだね。

 

 

ハウツーはないが、キモはある

地域のネットワークづくり

 

三谷地域自体に地域おこし協力隊などを応援したいという気持ちがあるかということですね。

   男鹿や県南の場合はどうだったんでしょう?

 

チバ五城目町役場の人たちはね、五城目町に対してすごく危機感を持っているわけですよ。

   隣に新しく井川さくら駅ができたでしょう? そのせいで、井川の方が便利になったの。

 

高橋:井川さくら駅周辺に、大きなショッピングセンターができていますものね。

 

チバ:そうそう。五城目はあのエリアにおいて、伝統的に中核的な町だったわけです。

   それがその駅ができたおかげで、今や人口がひっくり返る勢いなんですよ。

   このままじゃ五城目が衰退してしまうと危機感を持っていて、積極的に動いているわけです。

   だから、外の若者の力を地元が求めているケースが五城目。

   そして自然発生的に個人でやり始めたのが

   県南の皆川嘉左エ門さんやデリカテッセン紅玉の高橋基さん。

   こうありたいという理想のもとに孤軍奮闘しているのが男鹿の猿田さんかな。

 

高橋:紅玉さんの場合は、人と人をつなげる努力と、

   凝りかたまった“常識”に負けない知識をつけようと日々努力している感じがします。

 

チバ:うん。県南の高橋基さんは、仲間の作り方、ネットワークのひろげ方がうまかったんだと思う。

   五城目もネットワークを作って生かして、

   広げるためのしかけを作って売り込んでいったんですよね。

 

三谷:ネットワークづくりって、キモなんだなって改めて感じたツアーでした。

   でも、ネットワークづくりそのものにはハウツーってないんですね。

   ネットワークによって生みだされたものが地域を変えるという事例は

   いろいろと見ることができたけど、

   キャッチボールがうまくできるネットワークそのものの作り方となると、

   そのための方法論が存在するわけではない。そこに難しさがあるし、

   外から見ていてその地域がおもしろいかどうか、

   というポイントにもなっているように思いました。

   それこそが地域の価値を作り出すキモになるっていうことですよね。

   五城目のシェアビレッジのクラウドファンディングもすごくうまくいっていましたよね。

 

チバ:五城目のクラウドファンディング成功に関しては、

   プランがいいからお金が集まったということだけではまったくなくて、

   トラ男さんが全国でアピールしてくれたところが大きい。

   やっぱり、組織力なんだよね。役者がいろいろ揃っていたからこそできた。

   それじゃなきゃ、ネットにクラウドファンディングを載せましたというだけで

   あんなにお金が集まるわけがない。

   古民家の再生なんて今どき珍しくないじゃないですか。

   会費を年貢と呼びました、会合を一揆と名付けましたというだけであんなに集まるわけはなくて。

   トラ男さんの日頃のネットワークをうまく活かせたことで、みんながついてくれた。

   インターネットはいいことしか書かないから多少は集まるわけだけど、

   クラウドファンディングは希望額に達しないと流れるからねえ。

 

高橋:わたし、東京にいたときからトラ男さんのお名前はよく聞いていて。

   秋田よりも県外での活動が多い方なのかなあと思います。

   宣伝役と作戦を考える人、現地での実行部隊と。本当にチームワークですよね。

 

 

「愛さえあれば、なにもいらない」

……んなワケ、ない。

 

三谷:あのクラウドファンディングでは目標金額200万円のところ、

   最終的には500万ぐらい集まったそうです。

   五城目町地域おこし協力隊は活動を始めて2年目で、シェアビレッジにBABAME BASE、

   日曜の臨時朝市場など、これだけ話題も提供していて、

   すごく成果が出ている地域おこし協力隊だと思うんです。

   それにしても、彼らの「五城目愛」って本当にすごいよね。

   ただ、あれって……ある意味、五城目じゃなければならない、ということでもなかったですよね?

 

チバ:どこでもよかったと思うよ。何せ臨時の愛ですから(笑)。

   いま、自分が愛するのは五城目と決めていて。

   ……というのは冗談としてもね。

 

三谷:うっ、聞いた私がいいますけど、チバさん、バッサリ……。

   でも、私もある部分ではそう思っていて、斜に構えた見方をしてしまうと、

   「そ、そこまでよくないぞ、同じようなところいっぱいあるぞ??」って思うんだけど(笑)、

   彼らにとっては、そういうことじゃないんですよね。

 

高橋:それこそ、お題にも出していた「ポジティブ変換」というか、

   底抜けなポジティブさがあったからうまくいったのだろうか?

 

三谷:あのポジティブは折れないんだろうかって、見ていて時おり思うんだけどさ(笑)。

   でも、大丈夫なんだよね、きっと。ツアーのときに、

   「あ、この感じなら折れないだろうな」と思ったの。

   ずっとかどうかわからないけれど、比較的長く愛し続ける前提で、五城目を愛しているなって。

     そもそも、愛なんて「ずっと愛してくれないならその愛はウソだ!」って

   言えるものじゃないもんね。やっぱり私の見方がひねくれてました。スミマセン……。

 

高橋:昼食先の農家レストランで柳澤さんに、

  「このなた漬け(*秋田の漬物の一種)、すっごいおいしいんですよ!」ってすすめられたとき、

   勢いで食べてみたくなっちゃったもんね。

 

チバ:僕たち秋田県民にとって、なた漬けってそんなにめずらしくないんだけど、

   そんなごく普通の鉈漬けもあの調子で言われたら「どれどれ食べてみようか」ってなるよね。

 

高橋:私は自分が秋田県民だから「そんなに秋田って、いいか~?」って気持ちがあって

   ナナメから見てる感じがあるのかもしれないけれど、目の前のことに全力投球というか、

   柳澤さんが本心で思ってないとしても、あれを発言できるポジティブさというか(笑)。

 

チバ:あとは「どこまで背負うか」なんだよね。五城目にしろ他の地域にしろ、

   地方で生まれ育って住んでいる人って、生活基盤もそこにあるから、逃げられないわけですよ。

   柳澤さんぐらい有能な人であればどこに行ってもやっていけるはず。

   逆にそういう地方の人が背負っているものを背負ってないから、

   あの軽やかさが生まれるのかもしれない。

   彼らがやっていることって本当はもっと重たいものだと思うんだよね、住民にしたら。

   本来は行政がやるべき課題なんだから。

   柳澤さんの前職がお金をしっかりと稼がないといけない仕事をされていたって言っていたよね。

   企業価値を最大化することを考えてきたんだけれども、その取り組みは違うと辞めて。

   そういう経験があるからこそ、今これができるんじゃないかなって、ちょっと思いました。

    

   だいたい僕はね、最初から「地域活性」いう人の発想って、あまり良く思っていなくて。

  「ご説ごもっともなんですが、で、結局どうやって食っていくの?」っていう

   甘さがある人が多いようにみえるんです。

   その点、柳澤さんの場合はいったんお金を稼ぐこと、食うことと

   シビアに向き合ってきたキャリアがちゃんとある。

   そういうところに身を置いて体験した上で応用をきかせてやっているから、

   きれいにまとめられるんだと思う。

   だからアートマネジメントをする人っていうのは、アートを好きなだけじゃダメですよ。

   男鹿の回の対談では「根本的には愛が必要だ」っていう話をしていたけど、

   好きだっていうだけでは本当はダメ。

   いろんな経験をしないといけない。

 

高橋:五城目出身で、直島のベネッセハウスでアートプロジェクトチームに関わっていた

   小熊さんという男性が地元に戻ってきたじゃないですか。

   そういう意味でも、本当にアートと五城目町の今後の動きが興味深いですね。

 

 

「地域課題×アート」という問いに

出口はあるのか

 

三谷:最後に締めとして。3回のバスツアーを振り返った感じではどうでしょう?

 

チバ:これ、まとめないといけないのかな(笑)。

 

三谷:「地域課題研究」という大きなお題から枝分かれしたうちの一つがこのバスツアーでした。

   同じ秋田県の中でも、それぞれ地域課題の背景はそれぞれだったなぁという印象。

   共通する課題は多かったけれど、地域ごとに問題の特性は異なるし、

   課題に対する向き合い方もけっこう違いましたよね。

 

チバ:そうだね。今回のツアーで地域のそれぞれが持っている課題というのを再確認したわけですよね。

   若年者層が減っているというのはどこも同じなんだけれども、

   そういった言葉で置き換えられるもの以上の地域課題というのが、

   その地域ごとにケースバイケースであるんだということがまずわかったよね。

    

   町=アート作品として例えれば、五城目町はアートマネジメントができている状態ですよね。

 

三谷:そうですね。今もおもしろいし、

   これからもきっと何か起こるに違いないっていうムードがあるじゃないですか。

  「何かここから出てきそうな感じ」っていうムードだけでも作れているというのは大きい。

 

   男鹿の空き家バスツアーは生々しくてすごかったなぁ。

   インパクトはすごく残っているのだけれど、

   それが町=アートして昇華する可能性があるのかどうかは、ちょっとわからない……。

 

高橋:そもそも、アートにそんなに力があるのかな? それこそ根本の話に戻ってしまいますが(笑)。

 

   県南の紅玉さんのやっていることがアートなのはわかるんだよね。

   自分の手や足を動かしてやっているわけじゃない? 

   でもさ、アートって単にプロデュースするだけでもその人の作品になったりするんでしょ?

   じゃあアートってなんなんだろう? ってそっちもわからなくなってきて。

 

チバ:アートってさ、何をやってもアートだもんね。

 

高橋:なんでもアートと言えば丸く収まると思うなよっていうかさ(笑)。

 

三谷:でもさ、展示を見て消化しきれない作品ってあるじゃない? 

   そういった自分のなかで整理しきれないものに対して「まあアートだからね」って

   都合よく自分を納得させるときもあるよね。そうやって共犯関係を作ってきた自分もいるかも。

 

高橋:そうそうそう! それでもやもやしたものを「アートだから」と納得させて、

   引き出しの奥にしまっちゃう。

 

三谷:だから「アート」という言葉ってある意味、便利。そして危険でもあるし、怪しい。

 

チバ:怪しいです。アーティストが作ったものはすべてアートになる、というのは

   もっとも自由な考え方ではあるけれども、そういうことを言い出すと多分、

   地域課題の解決云々にはつながらないですよね。

 

 

例えば、紙を丸めて、ポンと置く。

それはアートか否か、という話。

 

三谷:アートって教養がないと理解できないものであるというのは

   シンポジウムのときに土屋先生がおっしゃっていたけれど、

   かたや、かなり裾野の広いところに「これはアートと言えるのか!?」というものが

   ものすごくあるよね。

   目の前にあるこれは、はたしてアートなのか? 私たちはしっかりと理解しているのか? 

   というふうところで言うと、正直に告白すると私にとってはかなりブラックボックス。

 

チバ:だから彼らアーテイストは実際に内向きですよ。

   「アーティスト」だって美大を出ている人が圧倒的多数であることからもそれは言えると思う。

    でもね、僕の感覚からいうと、美大に入った時点で芸術家としては終わりなんじゃないかと。

 

三谷:え、なんでですか?

 

チバ:だって体制に入っちゃうんだもん。

   そんなこと僕が言ったって世の中的には何にも価値がないけれども。

   価値がある人と言えば、レオナール・フジタですよ。

   彼が日本から出て行ったのは、戦後日本の美術界から叩かれたからだもんね。

   日本にいる美術家は、戦争画を描かされたわけですよ。

   戦争が終わって、その矢面にたたされたのがフジタだったわけ。

   全部フジタが悪いみたいなことになって、うんざりして。

   すごい捨て台詞を残して、パリに移住したんだよね。

   だからレオナール・フジタの知名度が欧米よりも国内で低いのは、

   いまだ根に持っている日本の美術界が、

   フジタの功績をしっかりと評価しようとしないからなんだよ。

 

三谷:へぇ~~~。

 

チバ:今の美術界において、フジタのように喧嘩する人があまりにもいないのが現状。

   院展に入選しましたってさ、それだってもう恥ずかしいことなんじゃないかって思うわけですよ。

   新しいことを生み出せていない審査員が、

   新いことをやれていない人を選んで入選させるんですよ。

   狩野派みたいな、いわば伝統的なものを受け継ぐシステムであるならばわかるんだけれども、

   「美大を出ました→入選しました→私はアーティストです

   →アーティストがやったのなら、ただその辺にある紙を丸めたものだって作品です」、

   なんていうのなら、それはもはやアーティストとしては墓場だろうと。

 

高橋:アキケイにも取り上げられている、

   秋田在住の介護福祉士でありアーティストである伊藤誠吾さんが

   「障害者展」でそれやってましたけどね(笑)。

   障害者が丸めた紙を10何万とかで売っていましたよ。

 

三谷:それ、売れたの!?

 

高橋:いや、幸いどれも売れなかったらしい(笑)。

   よくよく話を聞くと、作品の値段はそれぞれの障害者の方がもらう障害年金額や、障害者と話し合って決めた額らしくて。それを聞いたら価格設定にも納得がいきました。

 

チバ:きちんと意味がある金額なんですね。アキケイでも2回ぐらい取り上げたんだけど、

   だんだん僕がついていけなくなって(笑)。

   いちばん最後に関わったのは、豆。豆の展示ですよ。

 

高橋:あー! 枝豆でしょ?

 

チバ:まさに、アーティストが何か自分の中のイメージを持って、そこに置いたもの・表現したものは

   全部作品になるっていうことなんだよね。空間を全部含めて。

   (※秋田市にある総合生活文化会館「アトリオン」の展示ホールを借りて行った展示。

    赤いビロードの上にひとさやの枝豆が至極大切そうに飾られているという作品を展示して物議を醸した)

 

   伊藤誠吾さんが面白いのはさ、

   2014年に秋田で開催された国民文化祭(国文祭)のときに、いくつか応募したらしいんだよね。

   で、あの人のやることだから全部落選するわけですよ。

   僕は落ちて正解だと思うんだけど。

   それで、秋田で国文祭が開かれているなかで、

   ごく個人的に「国文祭落選展」というのを開催したんだよね。

   タイムリーさといい、問題提起といい、

   多分彼が美大卒でさえあれば……というところでしょう。

 

三谷:会田誠さんぐらいの破壊力を持てたかもしれないんですね?

 

高橋:ただ惜しまれるのは、実行力とタイムリーさはあるのに、中身の充実度が足りないんですよね。

 

チバ:そうなんだよなぁ……。

    メインの国文祭よりも落選展のほうが面白かったと言わせるぐらいやってほしいよね。

 

三谷:アートって一体なんなのか? アートマネジメントとはどういったものなのか……? 

   私は逆にもっとわからなくなりましたよ……。

 

(終わり)

 

アキケイ(秋田経済新聞)での伊藤誠吾さんの記事

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